ジェンダー医療研究会:JEGMA

ジェンダー医療研究会は、 ジェンダー肯定医療に関して、エビデンスに基づいた情報を発信します。

診療所から紹介されたジェンダーの問題を有する思春期の若者における性比変化に関するエビデンス

A-001

原文
Aitken, M., Steensma, T. D., Blanchard, R., VanderLaan, D. P., Wood, H., Fuentes, A., Spegg, C., Wasserman, L., Ames, M., Fitzsimmons, C. L., Leef, J. H., Lishak, V., Reim, E., Takagi, A., Vinik, J., Wreford, J., Cohen‐Kettenis, P. T., de Vries, A. L. C., Kreukels, B. P. C., & Zucker, K. J. (2015).

Evidence for an Altered Sex Ratio in Clinic‐Referred Adolescents with Gender Dysphoria.

The Journal of Sexual Medicine, 12(3), 756–763. https://doi.org/10.1111/jsm.12817

抄録

序文

性別違和(ジェンダー違和:Gender Dysphoria)のために専門のジェンダークリニックへと紹介される思春期の若者の数は増加しているようであり、またそれに伴って、生得的男性優位から生得的女性優位へと性比が変化しているようである。

目的

性別違和(GD)で紹介された思春期の若者の性比が近年逆転しているかどうかを確認するために、2つの量的研究を行った。

方法

2つのジェンダークリニックの思春期の若者の性比を、2つのコホート期間(20062013年とそれ以前)の関数として調べた。研究1はトロントのクリニックの患者を対象に、研究2はアムステルダムのクリニックの患者を対象に行った。

結果

両クリニックの合計サンプル数は748であった。両クリニックにおいて、2つのコホート期間中、紹介された思春期の若者の性比に有意な変化がみられた:2006年から2013年の間では、性比は生得的女性が優位であったが、それ以前では生得的男性が優位であった。トロントの研究1では、他の臨床的問題のために紹介された6,592人の思春期の若者の性比には同様の変化はなかった。

結論

性別違和(GD)のある思春期の若者の性比が近年逆転していることの説明として、社会学的および社会文化的説明が提示されている。

 

SEGMによる解説

短い要約

本研究は、ジェンダークリニックに紹介されたジェンダー違和(性別違和: Gender Dysphoria)の思春期の若者の人口統計学的変化を経験的に立証しており、注目に値する以下のような結果を得た。


1) ジェンダー違和のある思春期の若者の紹介率が増加した。
2) 紹介されたジェンダー違和のある思春期の若者の性比が、生得的男性優位な集団から生得的女性優位な集団へと逆転した。

これらの変化は、2006年頃に2つの独立した専門のジェンダークリニック(トロントとアムステルダム)で起こった。これらの変化の原因は不明である。提示された仮説のいずれも、ジェンダー違和のある思春期の若者で認められた人口統計学的変化を完全に説明するものではなく、また成人に同様の変化がないことも説明できない。 

詳細

本研究は初期の研究の1つであり、ジェンダークリニックに紹介された思春期のジェンダー違和患者の性比が生得的男性優位な患者集団(2006年以前)から生得的女性優位な患者集団(2006~2013年)へと変化したことを経験的に立証した。

今回の研究は、カナダのトロントにある依存症・メンタルヘルスセンター(Center for Addiction and Mental Health: CAMH)の中にあるジェンダーアイデンティティサービス(トロントクリニック)と、オランダのアムステルダムにあるアムステルダム自由大学医療センターのジェンダー違和専門センター(アムステルダムクリニック)に紹介された思春期のジェンダー違和患者の性比をそれぞれ分析した2つの研究からなる。

研究1では、1976年から2013年の間にトロントクリニックに紹介された328人の思春期の若者(13-19歳)のデータを評価した。時間の経過とともに、紹介された思春期の若者は有意に増加していた。患者の出生時の性別データを分析するために、2つの期間(1999~2005年および2006~2013年)が選択された。2006年以前(1999~2005年)は生得的男性の割合(67.9%)が生得的女性の割合(32.1%)を上回っていたが、2006~2013年は生得的女性の割合(63.9%)が生得的男性の割合(36.1%)を上回っていた。言い換えれば、男女比は2.11:1から1:1.76に変化した。ジェンダー違和のために紹介された思春期の若者の集団を、他の理由(ジェンダー違和ではない)でChildren Youth and Family Servicesに紹介された思春期の若者6,592人からなる対照群と比較した。紹介された患者の性比の変化は、ジェンダー違和のある若者に特有のものであり、他の診断で紹介された思春期の若者の集団では観察されなかった。


研究2では、1989年から2013年の間にアムステルダムクリニックに紹介された420人の思春期の若者(13歳以上)のデータを評価した。トロントクリニックの所見と同様に、アムステルダムクリニックでも、ジェンダー違和で紹介された思春期の若者の性比の逆転が記録されている。2006年以前(1989~2005年)は、生得的男性(58.6%)の割合が生得的女性(41.4%)を上回っていたが、2006~2013年は、生得的女性(63.3%)の割合が生得的男性(36.7%)を上回っていた。つまり、男女比は1.41:1から1:1.72に変化したのである。

この研究の著者は、「ジェンダー違和の若者の男女比の逆転は新たな出来事であり、ひとつもしくは一連の説明が必要である」と述べ、認められた人口統計学的変化に寄与した可能性のある要因について、いくつかの仮説を提示した。

彼らは、メディアにおけるトランスジェンダーの認知度の向上、オンライン情報がより幅広く利用できるようになったこと、スティグマの減少、ジェンダー違和に対する利用可能な医学的治療に関する意識の高まりが、紹介件数の増加に寄与している可能性があると考えた。しかし、これらの要因は、紹介された思春期の若者の男女比の変化を説明することはできない。著者らは、スティグマにおける性差が、医療を求める生得的女性の数の増加に寄与しているのではないかと述べている。しかしSEGMは、スティグマにおける性差では、なぜ思春期の若者では性比が変化する一方で、より年長の成人では変化がなかったのかを説明できないと指摘している。